「柚希、起きて。風邪引くよ」
「……んー」
せめて俺の部屋のベッドで寝てもらおうと、軽く柚希の体を揺らす。
けれど眉間にシワを寄せただけで、またすぐに聞こえてくる寝息。
はぁ。どうしよう。
こういうとき、要だったら迷わずお姫様抱っこして運ぶんだろうけど。
……そんなこと、俺にできるはずがなくて。
ベッドに移動させて寝てもらうか、ここでも寒くないようにするか。選択肢はふたつ。
「……柚希」
そう名前を呼んで、柚希の頬を撫でる。
くすぐったくて起きてくれたらいいな、なんて卑怯な俺。
……と、柚希がうっすらと目を開けた。
「……柚希?」
「…………」
けど、様子がおかしい。
目は座って、頬は赤くて、焦点も合ってない。
おまけに無言。ぼんやりとした目線だけを俺に向けて、ただただ見つめてくる。
……寝ぼけてるのかな?
そう思って、もう一度柚希の名前を呼ぼうとしたとき。
「……へへッ」
「……!?」
「……山田くんだあ……」
突然へらっと笑ったと思ったら、そのままぎゅうっと俺に抱きつく柚希。
俺の胸に頬を寄せて、猫が甘えるみたいに声を出す。
「帰ってきたあ……」
「……え……っと、うん。遅くなってごめんね」
「……ほんとだよお……さみしかったんだからなあ~……っ」
寝ぼけているにしては、ちゃんと会話できてるし。抱きついてくる腕も、普段と変わらない強さだし。……いや、むしろいつもより強い。


