――――……
――……
「……お嬢さん」
いつの間に戻って来ていたのか。
ケンカしたときの要くんとの会話を思い出し、一粒涙が零れたのと。
タオルを持ったおじさんが、そう優しく声をかけてきたのはほぼ同時だった。
「あ……すみません、ありがとうございます」
差し出されたタオルを受け取り、涙を拭う。
申し訳ないが、案の定タオルは真っ黒。
あとで新しいのをお返ししないと……。
グスグスと鼻をすする私の隣に、おじさんは『よっこいしょ』と座った。
ふたり並んで、ぼんやりと石段へと続く道を眺める。
その静寂は、ひとりでいたときとは違って。
まるで、おじさんが私にくれた、素直になるための時間のような気がした。
「私……」
「……うん?」
ぽつり。
自然と口が動き、気付けば事の流れを話し出していた。
「……私、彼氏とケンカしたんです」
おじさんは何を言うでもなく、ただ黙って、私の話に耳を傾けてくれていた。


