「……六花ちゃん」
あの頃とは打って変わって、冷たい風が身を震わせる今。
六花ちゃんの華奢な両手を、そっと引き寄せる。
ふたりの距離が縮まり、無意識に心臓が暴れ出す。
覚悟を決めたはずなのに、ぶり返してくる緊張が、声帯を異様なほどに震わせて。
「……あのとき、一歩を踏み出してくれたのに、目を逸らしてごめん」
「……え?」
踏み出すには、怖すぎる一歩を。
どれだけ勇気がいったのか、容易く想像なんて出来ない一歩を。
疑問符を浮かべて、六花ちゃんが俺を見上げる。
男は上目遣いに弱いって言うけど、本当にそうだと思う。
こんな目うるうるさせて、
目が合っただけで顔真っ赤に染めて、
俺のこと大好きって示されちゃったら。
手のひとつやふたつ、出したくなるっつーの。
「……でも、俺」
もちろん、そこは堪えたけど。
男の欲望に勝った俺偉いよねうんありがとう。
なんてバカなことに意識を向けていないと、緊張で今すぐ吐いてしまいそうだ。
静かに深く、息を吸い込む。
そして、六花ちゃんを真っ直ぐに見つめて。


