『……え?』
その言葉を言われた一瞬、心臓がはたらきを忘れた。
なんてことない9月の晴れた日。
放課後。
立本が帰ったあと。
ふたりきりの教室で、そう言った六花ちゃんの声が空気を突き抜けた。
別に、大声を張り上げた訳でもない。
どちらかと言うと、独り言のように漏らされた言葉だったと思う。
けれど、それほど衝撃をくらった感覚がしたのは、本能的に、その言葉が俺に向けられたものだと悟ったからだろう。
動揺を隠しきれない俺に、遠くを見つめる六花ちゃんの唇が動き出す。
『……立ち止まってるのはさ、つまらないよね。そこにいるだけで、何もしてないんだもん』
『…………』
『行動を起こさないで、ただぼけっと“来た道”を見てるだけ。そうして突っ立ってる時間があるなら、どれだけのことに挑戦出来るのかなって思う』
『…………』
『なにもしない、なにも考えない、自分を見つめ直す努力もしない』
『…………』
『……そうやって、何もしないのと』
ふと、六花ちゃんの唇が閉じられる。
窓から差し込む夕陽が、六花ちゃんの髪を照らす。
……そして、わずかな沈黙のあと。
今までずっと前を見つめていた六花ちゃんが、静かに俺へと視線を寄越した。
『……少しでも前に進もうと、足踏みをしてる。
どっちの方が、楽しいのかな』


