そっと六花ちゃんの手を取り、指先だけ握りしめる。
……最初は、眼中にも入っていなかった。
やっと六花ちゃんの名前を覚えたのは、今年の夏頃だったと思う。
たまたま、友達とふざけてたらぶつかっちゃって。
たまたま、それが六花ちゃんで。
たまたま、そこにいた立本が『六花ちゃん大丈夫ー!?』って名前呼んでて。
六花って、変わった名前だな。
なんてぼんやりと思ったのは覚えてる。
もしもあの何気ない出来事が起きていなかったら。
もしもあのとき、六花ちゃんの名前を呼んだのが立本じゃなかったら。
俺は確実に、告白されたとしても名前を覚えていなかっただろう。
それくらい、あの頃の俺には立本しか見えていなかったのに。
……気付いたら、六花ちゃんのことばかり考えるようになっていた。
正確に言えば、告白を断ってから、だ。
六花ちゃんに告白されたのは今年の9月。
立本が香里奈のせいで、山田とケンカしてしまっていたとき。


