「あっれー?松川じゃーん!」
……られなかった。
俺の勇気がああああぁあぁぁああああっっ!!
誰なのなんなのなんの嫌がらせなの!?
心の中で憤怒しつつも、決して表には出さず、声が飛んできた方へ顔を向ける。
そこにいたのは、部活の男友達だった。
それはもうものすごくいい笑顔で、こちらに手を振っている。
……いやもうお前さ、頼むからいっぺんおうち帰れよ。
「……松川くん?」
「ぅあっ、ごめん、部活の友達」
「こんばんはー!」
立ち上がり会話をする俺たちの前で止まった友達は、一緒にいた六花ちゃんに笑いかける。
『こんばんは』と返事をし、軽く会釈をすると、六花ちゃんは俺を見上げる。
「あの……わたし、席外そうか?」
「え?」
「ふたりでゆっくりお話して?」
ね?と言って、ニコッと微笑む六花ちゃんは、本当にいい女だと思う。
……でも、その気遣いは不要。
後から来たのはコイツだ。
……ちなみに俺の勇気を踏みにじったのもコイツだぜヒーハー。
「や、いいよ」
「え?」
「六花ちゃんはここにいて」
そう言い切り、いったん離してしまった手をもう一度握る。
今度は片手だけど。
友達の前とか、そんなもんはどうでもよくて。
ただ、コイツには悪いけど、俺が今優先するのは誰でもない六花ちゃんだから。
また赤みを増した六花ちゃんの頬。
俺は友達と向き合い、爽やかに笑う。


