翼はしばし困惑したように、作り笑いで応えていたが、そんなものじゃ納得がいかないのか女ふたり組はさらに要求を続ける。



「もっとニコッとしてくださいよ!硬い硬い!」


「困った笑顔もカワイイですけどねぇ~っ。でも、ちゃんと笑ってくださいよ~」



…………。


一応、相手はお客様。

お店にとっても従業員にとっても、とても尊くて敬わなければならない存在。


うん、わかってる。相手はお客様。
私たちからすれば神様に匹敵するお客様。


大丈夫。落ち着け。

ちょぉーーーっと、注意するだけ。
そう。怒ってなんかないんだから。

注意するだけなんだから。


ふうっ、と短くかつ清々しく息を吐いて、心を無にする。


最愛の彼氏が困っている。

そんな危機的状況に、私の両脚は自然と翼と女ふたり組の元へ向かっていた。



「お客様、ご注文は……」


「だぁーかぁーらぁ、お兄さんの笑顔って言ってるじゃないですか。お客様の注文でしょ?しっかり聞かないとダメなんじゃない?」


「そーそー。それに、お兄さんなんか嫌々な感じするし。そんな対応じゃ、お客様も満足しないと思うなー」



……そう。神様仏様お客様。


例え、ちょーーーーーーーー理不尽な言い分で、大事な!彼氏の!翼が!!



「……失礼致しました」



“客”に向かって、頭下げてても。