「………ね、京ちゃん」



さとみが、ポツリと囁くように僕の名を呼ぶ。
その声の調子だけで判った。


彼女はいつだって誰より男前で。情けない僕を支えてくれて。


そう、だからきっと。

自分が一番傷付くと判っているのに、それでも彼女は僕の仕事を引き受けてくれようとしているのだ。


愛する人にさよならを告げる、その仕事を。



耐えきれなくて、胸が押しつぶされそうで、僕はそのまま細い彼女の体躯を引きよせる。

ごめん、ごめん、情けなくてごめん。これが最後だから。


折れそうに華奢な彼女の身体は震えていた。
愛しさが溢れて、切なさに焦がれる。どうしようもない。

最後の抱擁はたった一瞬だったのに、いや、だからこそ、僕らは今までで一番強くお互いを抱きしめ合った。

それこそ息が出来なくなるほど、強く。



「…さとみ、」



彼女の身体を解放し、顔をのぞきこめば、もう彼女は泣きそうで。
大きい瞳にはうっすら涙の膜が張られていた。

しかし泣くまいとそれを必死に堪える彼女は最後まで、僕が好きだった、僕が愛していた彼女そのままだった。

吐息が震える。



「…さとみ、別れよう」

「…うん」