そっと昔のことを思い出した。
セーラー服を着た彼女は子犬のように無邪気に笑う。

そんな彼女のことが大好きだった。


今もその感情は変わらないのに、どうしてなのだろう。
それは僕らを何度も傷付けて、傷付けて、追い込んで。

もう修復の仕様がないくらい、僕らは互いを追い詰めた。
こんな最後を迎えることになるきっかけを、僕はどこで見落としていたのだろう。


気付いていたら、こんな悲しい別れを迎えずに済んだのか。それすらもう、今の僕らには判らない。



「…さとみ」

「…ん、なあに」



そっと彼女の名を呼べば、こちらを向かないまま、そっと答えてくれる。
その声にはどこか悲哀の色が混じっているように聞こえた。


切り出そうと、焦れば焦るほど言葉が出なくて。声が喉の奥に詰まっているように息苦しかった。

耐えきれなくなったように、さとみが歩みを止めた。
それにつられて僕も歩みを止め、彼女と向き合う。


――気付いた。
彼女の瞳の色は、決して『無』なんかじゃなかった。


焦がれるように。切望するように。諦めるように。
矛盾する感情が入り混じった彼女の瞳は今まで見たどれより美しくて。


泣きたくなった。こんなに、まだ、好きなのに。
さとみが今でも僕を愛してくれているのか、それは判らないけれど、それでも少なくとも。


僕の心は昔と全く変わらないまま、さとみを求めているのに。