「ガラガラ…」


しんと静まりかえった空間に古い引き戸を開く音が響いた…。


どれぐらいそのままで居たのだろう?

時間の経過ですら、今の私には検討もつかない。


「ミシ…ミシ…」


何者かが、こちらに近づいて来る気配を感じて、現実に引き戻される。

一体誰が訪れたというのだろう?

一声かける事なく、近づいてくる侵入者に緊張が走る。

こんな最悪な状態で、もし、「人柱」を狙う妖に襲われでもしたら…

銀狼は駆けつけてくれるだろうか?

ううん…。

あんな事があったばかりだ…

それは、期待できない。

自分でどうにかするしかないっ!


私は布団の隙間から様子を伺った。


「ミシ…」


足音が寝室の前で止まる。

その瞬間、極度の緊張から、私の心臓も止まってしまいそうになる。


「…スラ…」


寝室の襖が開かれる音が響く。

身を強張らせながら、布団の隙間からその方向を見つめた。

その時…


『…あれ…?』


襖が開かれ、私の瞳に飛び込んで来たのは、侵入者の足元だった。


「…ミシ…」


布団に身を隠した私に近づいてくるその人物は…

白い足袋を履いた、男のものだった。


『…銀狼…?』


このご時世、足袋を常時身につけている人物など、私の知る限りでは、薄蒼の袴姿の銀狼か、真っ白な装束に紫の衣を重ねた山神ぐらいしか思い浮かばない。

そうは言っても、山神が先程の展開から今ここに訪れたとは考えにくかった…。


『銀狼が来てくれたんだ!』


そう思った私は嬉しくて、勢い任せに「ガバリ」と布団を押しのけた。


「銀狼!!」


『銀狼が会いに来てくれた!!』


それだけで私の気持ちは救われるのだ!


彼が、『真央』に会いに来てくれた、これは私にとってこれ以上にない、嬉しい出来事だからだ。





が………





見上げた先には…





真紅色……



もっと上へと視線を移すと…



茶色いビー玉の冷たい輝きが、私の視線と絡まった……。