私は、男と見つめ合っていた……。


…というより、向き合い、一人頭を巡らせていたのだ。


絶望的に話が通じない。


何だか頭痛までしてきた…。



どうしたものかと思いながら、男の姿を眺める。




………しかし…………




こうやって見れば見る程、綺麗な人だ。


歳は、私より、少し上ぐらいだろうか??

切れ長の瞳が、私の姿を、その中にジッと捕らえている。

美しい者に捕らえられた私は、なんだか、妙な高揚感を覚える。



銀色の長い髪が風に揺れている。





ーーああ、妖しげな雰囲気に酔ってしまいそうーー。




ボンヤリ男を眺めていると、男の綺麗な顔が少しずつ近づいて来る。



男は静かに瞳を閉じた。



「…夏代…」




「………っ!!だあああああっっ!!!」




我に返った私は、思いっきり男を突き飛ばした。



……が、


いつの間にか腰にがっちり腕を回されていて、お互いの顔の間に少し距離が出来るだけだった。



この至近距離に、心臓がドクドク脈打って、なんだか少し息苦しい。


男は、キョトンとした顔で言う。


「どうしたのだ??夏代子?」



私は真っ赤な顔をして男の顔を両手でグーっと押しのけた。



「何どさくさに紛れて、勝手に二回もチュウしようとしてんのよっ!!この痴漢っっ!!」


「痴漢とは、失礼な。俺はお前の婚約者だろう??」



「何っ!?婚約者!?」



「何があったかは知らないが、お前はすっかり忘れてしまったのだな。」



やれやれ、と言わんばかりに、左右に首を振る。


そう言う男の瞳には、先程までの憎しみの色は、もう消えていた。


今度は一体何を言い出したのか……?



「…っ!ちょっ!取りあえず、離してっ!!」



男の腕の中でジタバタ暴れる私を無視して、また顔を近ずけてくる。



「大丈夫だ。俺の口付けで全て思い出せ……。」





ーーー王子様のキスってか!?………絶望的な馬鹿だっ……!!






「………………。」




「……おい…。これはなんの真似だ?……」



「……だって、あんたがあたしを無視するからっ!!」



近づいて来た男の顔に



………手で牽制した。




男は私の手の平にキスをしているような格好になっている。