ハヤトが再びトレンチを掲げてテーブルに傅(かしづ)いた。

「お席に…」

「良いから座って」

卓につくためのホストの口上を遮り、ハヤトに着座するよう椅子を指した。

「いきなりで悪いんだけどね、ハヤトは『高杉美優紀』ってコ、知ってるかな?」

美優紀の名前を出した途端に、ハヤトの顔が青ざめた。


「美優紀は妹ッスけど……。まさか美優紀が、椿さんに何かしたんですか!?」


接客を忘れて身を乗り出したハヤトを、然り気無く樹が睨んだ。


「美優紀にね、今週の水曜日から私の家でハウスキーパーみたいな事をやって貰う事にしたんだよ。住み込みでね。施設には、私の父親が話をつけた」

「え!?なんでッスか!?」


鳩が豆鉄砲を喰らったようなハヤトの顔があまりにも可笑しくて、私はまた腹を抱えて笑ってしまう。

この兄妹似てるわ。


「今日さ、美優紀が私とエリカを掴まえて、どうしても『蘭』に自分を入れてくれって土下座して頼み込んで来たんだよね。アンタの為なんだけど。駄目だって言っても聞かなかったから、うちで働いて貰うけど、良いかな?」


ハヤトはあわあわと口を開閉させて言葉を探している。


「そのミユキって、年は幾つだよ?」

不機嫌そうに成り行きを見ていた樹が、ハヤトに声をかけた。


「美優紀は、まだ14才です」

「ハヤトは幾つなの?」


見た感じ、ハヤトと美優紀は、それほど年は離れていないようだけど……。