「俺な、すぐそこの交差点で
事故にあったんだ。即死でさ何もかも
ぺちゃんこ。だけどさ、あまりにも
一瞬の出来事だったから、どうもさ
理解できねぇんだよ。俺がこの世にもう
存在しないなんてさ。」

「ーーーそう、ですね。
私もまだ信じられないです。
出来ることなら嘘であって欲しい……」

思わず涙腺が緩みそうになる。

「そんな顔するなって」

そう言うと先輩はまた私の頭を
ポンポンと、してくれた。
けれどさっきもそうだったけど
実際には先輩の感触はなかった。
やはり、そうなんだなって
思い知らされる。

「青野、俺、まだまだやりてぇこと
いっぱいあったんだよ。
仕事だって面白くなってきたところだったし
結婚だってしたかったよ……」

「先輩……」

「俺、結構お前の事、本気で好きだった。」

「えっ?」

「今度はちゃんと、聞けよ
俺はお前のことが好きだった」

「ーーーーごめんなさい………」

「だよな。もう遅いっつうの。
良いんだ。なんかさ、色んな事やり残してるだろ?一つくらいやり遂げたいなって……
だから、告白?」

先輩は困り顔の私を見て
笑顔で言った。
そう、昔となんら変わらない
あの爽やかな笑顔で。

「あっ、俺なんか消えてきた。
ほら、見ろよ」

先輩の目線の先を追うと
確かに足元の方が薄くなっていた。

「なんかさ、今の告白で
少し気が済んだのかもな
漸く、俺も進めるわ」

先輩は満足げに言った。
そうしている間も
目の前の青い光に包まれた
先輩はどんどん消えてゆく。

「大沢先輩……」

途端にあの頃の
先輩への思いが溢れてきて
つい、言葉にしそうになる。


行かないでって……。


「ほら、またそんな顔する。
ったく……お前が悪いんだぞ」

そう言うと先輩は私をふわっと
包み込んだ。

私、今、先輩に抱き締められてる?

私よりも大きい先輩を見上げると
不意に先輩の顔が私に重なった。
えっ……キ、ス?

「せ、セン、パ、イ?」

先輩はイタズラっぽい笑顔を
浮かべると

「青野、俺、これでホントもういいや
こんなとこでグズグズしてねぇで
早く生まれ変わる。それで、
今回やり残した分も
次の人生で楽しもうと思う。」

清々しい顔で言った。

そうしてるうちにも
先輩の体はどんどん薄くなってゆく。
もう後少しで消えてしまいそうな時、
先輩が

「お前、バレーボールもうやんないの?
俺、お前のプレー好きだったよ。
思いきりがよくて、格好よかった。
おっ、いよいよだな。」

先輩の体は
ほとんど青い光になっていた。

「先輩っ、わ、私、
先輩の事が好きでしたっ」

私の言葉は届いたのかどうかは
分からないけど
私の目の前から先輩は
青い光ごと消えてしまった。

ただ、その瞬間

ーーーサンキュッ

って先輩の声が聞こえた気がした。





今まで目の前にいた先輩は
もうどこにもいなかった。
けれど不思議と私の唇だけには
先輩の感触が残っていた。
そぉっと、指で唇に
触れてみる。
確かにそこには熱が残っていた。