ーーーありがとうございます

その女性はそう言いながら
紙製のカップに
スティックの袋を破き
砂糖を二本分入れていた。

私は何時なんどきも札入れとは別に
小銭入れを用意しており
こういったときに備えている。
こういったときというのは
正しく、今だ。
女性は珈琲の支払いに一万円札を
出したが、たまたまつり銭がなく
仕方なく財布の中の小銭を集めた。
しかし、どうしても後、五十円が足りなかった。販売員が後程、つり銭を持ってくると
伝えた所で、私は気まぐれにお節介を
したくなり、自分の小銭入れから五十円玉を
取りだし、販売員に渡した。

恐らく、久しぶりの小旅行に
気分が高揚していたのだろう。

ーーーたかが五十円じゃないですか
気になさらないでください

私の言葉に女性は軽く会釈をすると
珈琲のカップに少し口をつけた。
その様子を見てから
私も漸く珈琲を口にする。
勿論、会話はない。
私とて、何も女性との会話を期待して
お節介をやいたわけではない。
なのに、どうも居心地悪く珈琲を
口にしていた。
早く飲み干し、岡山に着くまで少し
仮眠をとろう。
恐らく、今通過したのは米原だろう。
通路の先に目を向けると
やはり、ただ今、米原駅を通過と
表示が出ていた。

飲み干したカップをテーブルに起き
少し座席を倒す。
車両一番後ろだとこういうときも
遠慮がいらないのだ。

私は最近、少し出てきた腹の辺りで
両手を組むと軽く目を閉じた。

ーーーあの……聞いて頂きたいお話があります

私の右耳に女性の声が入ってきた。

ーーーはい?

閉じていた目を開け聞き返す。

ーーーですから、聞いて頂きたいお話があります

何やら思い詰めた表情の女性を見ると
その申し出を断る事など出来なかった。
私は座席をまた元の位置に戻すと

ーーーでは、お聞きしましょう

女性の目を見て言った。

ーーー私ね、殺してしまったんです
罪を犯しました

女性は真顔で私に言った
こういうとき、一般の人なら
何ていうのだろうか。
私は仕事柄、こういう話を聞いても
大袈裟に反応することもなく
かといって、無視をするでもなく
冷静に聞き返す。

ーーーそれで、あなたはどうしました?

と、