名古屋から岡山に向かうため
新幹線を利用する。
仕事が一区切りすると
四、五日の休みを取り、旅へ出る。
気ままな男の一人旅だ。

岡山への旅の目的は大原美術館へ
向かうためだ。
ドガ、ゴーギャン、モネ、ルノアール……
と言った西洋を代表する作品の数々を
所蔵する大原美術館。

けれど今回は
前回、時間がなく見ることが出来なかった
工芸館にて棟方志功の板画を見るためだ。

あのエネルギッシュな作品の数々を
この目で見ることが出来るかと思うと
既に心は大原美術館へと
飛んでいた。

名古屋駅から乗り
新幹線は西へと動き出す。
三日月型の巨大な某メーカーの工場を
過ぎた辺りで前もって購入しておいた
味噌かつ弁当を広げ頬張る。

旨い。

新幹線での座席は車両一番後ろ
二人席の通路側と
昔から決めている。
車両の一番後ろだと自分の席の後ろに
荷物を置いたり出来、わざわざ
荷物棚に重い鞄を持ち上げることもない。
後、トイレなど人に気遣うことなく
出入りがしやすいのと
何となく三人より二人の方が
ゆったり座れる気がするからだ。

あくまでも気がするからだ。

味噌かつ弁当を平らげていきながら
ふと、外の景色に視線を向けると
隣の席の人物が窓ガラスに写っており
互いの視線が一瞬絡む。
歳は三十代後半だろうか
いいや、もしかすると
もっと上かもしれない。
清楚な感じのする女性だ。

中年男性がまじまじと見ていたのでは
何となく気まずいと思い
私は味噌かつの最後の一切れを
口に慌てて放り込み、
広げていた弁当の折りを片付ける。
その時、
折りと紙とのガサゴソという音と
新幹線がリズムよく走る
ガタンゴトンという音に紛れて
聞き慣れない言葉を聞いた。

確かに聞いた。

ーーー殺意はありました

と、

けれど、そんな物騒な話を
こんな場所で聞くわけもないだろうと
私は気にも止めず、
弁当のからをゴミ箱へと捨てるために
席を立った。

こういうとき、つくづく
通路側の席で良かったと心から思う。
ゴミを片付けついでにトイレも済ませ
洗面場所で手を洗いながら
先程の言葉を頭の中で繰り返す。

ーーー殺意はありました

やはり、聞き間違えたのだろう。
私はまた席へと戻った。

席に戻ると女性は背もたれに頭を預け
そして、
目を閉じていた。

ーーー眠っているのか?

そんな事を思いながら席にゆっくりと座る。
珈琲が飲みたくなり
社内販売のワゴンが来ないか
通路の先の様子を伺う。

けれど、
やはりさっきの言葉が頭から離れない。

そうこうしているうちに
ワゴン車が販売員の甲高い声と共に
車両へと入ってきた。
車両一番後ろの席で
側までワゴンが来るのを静かに待つ。
そして
側まで来たとき、
声をかける。

ーーーホット

と、

ーーー私も

隣に座る女性が続けた。