それからの撮影はトラブルもなくサクサクと進んだ。



桜小路さんの気持ちを聞いてからは、私と彼女は今までのわだかまりが嘘だったように、現場でも仲良くしているのには自分でもビックリだ。


こと共演するにあたっては、彼女を味方につければ怖いものはないと言っても良いぐらいだけど、私は彼女の取り巻き達のように媚びへつらうようなことはしたくない。


桜小路さんの悩みを真剣に聞いてあげたくて。


それには、対等の『友達』って立場でいたいんだ。



桜小路さんが抱いた淡い恋心をなんとか成就させてやりたいとは思うけど、そのためにはまず学校に戻って月島くんと話をしなければいけないし。


まずはこの現場を滞りなく成功させて、それから学校に戻って月島くんと話さないとね。




「有栖川宮、入ります!」

衣装を着たまま物思いにふけっていた私の鼓膜をスタッフの声が揺らした。



よし、ここは一旦桜小路さんや大地くんの事は忘れて全力で撮影に臨まないと!




「一ヶ月ぶりのここの現場、相変わらずピリピリしてるよね。仕事終わってからも遊ぶとこもないし、監督は厳しいし」


有栖川宮役の倉木さんが私の耳元でこっそり囁いた。


「お久し振りです。早く帰りたいですよねぇ…」


倉木さんの言葉には全くの同感だったので、苦笑してそう返した。



東北の僻地にカンヅメなんて気分が滅入って仕方がない。





撮影は大政奉還後の混沌とした暗い時代に差し掛かっている。



あと少しでこの現場ともお別れだ。