(俺は、あの日から、二人のためだけに生きてきた。


今はとても満ち足りている。


これ以上、なにも望むことはない……)




だが、時が過ぎたということはまた、大きな変化が訪れる日が近づいたということでもあるのだろうか。



今の日々が、このまま安穏と続いていくことはないのだと、それを何より願うウチュー自身が、強く予感していた。




(こんな幸せが、一点の曇りもない幸せが、続くはずはない…)




それは分かっている。


それでも、ウチューは祈らずにはいられなかった。




(一日でも、一秒でも長く、このままで、いさせてくれ…。


その幸福な思い出を糧に、何が起きても、全てを乗り越え、生きていくことが、できると信じたい…)




チキュがこちらを振り向いた。



満面の笑みで、大きく手を手招きする。



「ウチューっ! 早く帰ろ!」



セカイもゆったりと振り返り、じっとこちらを見ている。




漆黒の艶やかな髪と栗色の柔らかな髪が、絡まり合うように風に舞い上がった。





ウチューは、「ああ」と呟いて、ゆっくりと足を踏み出す。





煙草から燻る煙が、真っ青な空にゆらゆらと立ち昇っていった。