「なぁ、お前。

今から地国に降りるんだろ?


なぁ、俺もついて行っていいよな?」




「いけません。危険です」





タツノに問われたキムロは、鋭い声音ですぐに返した。



しかし案の定、タツノの表情は崩れない。




「………と言いたい所ですが。


どうせお止めしても、勝手についていらっしゃるのでしょう?」




「よく分かってるじゃないか。

長い付き合いだもんなあ。


さすが、俺が生まれる前から父上付きの諜報官をやっているだけのことはある」





長々と息を吐き、肩を落としながら天宮の外へ向かうキムロの後ろを、タツノはにやにや笑いながらついて行った。







ーーーその二人を、柱の陰から盗み見ている女がいた。



先ほどのムラノに杯を給仕していた、ムラノの部屋付きの女官である。




(………やはり動き出したわね)




女官は満足気にほくそ笑んだ。





(………さっそく、ミチハ様にご報告しなくては)





素早く踵を返し、フジハ家の区画へと小走りに駆けて行った。