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家臣が慌てて立ち去った後。
ムラノは苛々しながら忙しなく部屋を歩き回っていた。
そこに、がちゃりと扉が開いて、一人の青年が入室してきた。
「………お前か」
ムラノはちらりと振り向き、と呟く。
ムラノの長男、タツノである。
お世辞にも美男とは言い難い父親には、幸いにも似ず、洗練された美貌の青年である。
腰まで伸ばした長い黒髪を無造作に垂らしている。
物憂げに首を傾けながら、気怠い足取りでムラノに近付いた。
「父上。聞かせていただきましたよ」
背の低い父を見下ろすように、無表情に言う。
「………ふん、立ち聞きか。
相変わらず躾がなってないな、お前は」
苦々しい表情で言われ、タツノは片方の口角だけを上げる皮肉な笑みを作った。



