ここは、古くからの名門天貴人ソガノ家の一門が居を構える区画。




その一室の中央に座っているのは、ソガノの現首長である参議のムラノである。



彼は、女官が運んできた杯を飲み干し、苛立ちを隠さずに爪を噛んでいた。




傍らに膝をついている家臣は、ただ黙って項垂れている。





「………それで、お前は。


『エーテル』らしきものを見つけたのにも関わらず、これは違うと自分勝手に判断して、のこのこ帰って来たんだな?


わざわざ地国くんだりまで足を運んで、またもや何も得ずに………」





黒衣を身に纏った家臣の男が、小さく首を縦に振る。




「………は、も、申し訳もございません………」




そう言ってから、少し顔を上げてちらりと主人の表情を窺う。




「………いえ、しかし、お伺いしていた条件に、当てはまらなかったので………。


おそらく人違いではなかろうかと………」






ムラノは怒りに任せて、傍らの燈台を足で蹴倒した。





耳をつんざくような鋭い金属音が鳴り響き、男が縮み上がる。




側に控えていた女官も驚いたように顔を上げた。