天と地の叙事詩Ⅰ Epic of the Ether

仲良く並んでしゃがみ込み、籠の中の蝶を観察する二人に、煙草を咥えた一人の青年が近づいてきた。




「おーい。セカイ、チキュ」





変わった風貌の青年である。



ひょろりとして背が高く、すらりとした体つきをしているが、全身の体毛がない。



頭髪も眉も、睫毛さえも生えていない。



その睫毛のない一重瞼で切れ長の眼、その琥珀色の瞳には不思議な力が感じられた。




「お前ら、いつまで遊んでんだ。


勉強の時間だぞ! 早く家に入れ」





この青年ウチューが、セカイとチキュの育て親である。




二人は物心ついた頃からずっと、このウチューに育てられてきた。





「えぇっ。もうそんな時間!?」





いかにも嫌そうな表情をつくって、チキュが振り返った。




「べんきょーやだー。まだあそびたーい」




唇を尖らせて、ごねる。





その隣でセカイは、我関せずとばかりに、蔦籠から揚羽蝶を逃がしてあげ、陽光に透ける翅をじいっと見送ったあと、家の方へと足を向けた。





「お、やる気満々だな、セカイ」




にやりと笑ったウチューは、煙草を吹かしながらチキュの首根っこを持って、「はいはい、早く早く」と引き摺って行った。