「…………ああ………」





溜息のような吐息が漏れた。





「………できないーーー」




(私には、できない………)





震える指先で頬に触れる。



冷たい涙が、流れていた。





(ーーーまた、私は逃げるのだ)





「許して………」






彼女は傷口に強く布を押し当て、ナイフを懐に隠した。







そして、駆け出した。






小さな温もりを、胸に。




過去に捨ててきた愛を、胸に。






ーーー逃げるために。



そして、宿命と闘うために。