天と地の叙事詩Ⅰ Epic of the Ether

アイラル最大の朝市が毎日催されているのは、トーキ爺の住まいからしばらく下った所にある、大きな中洲の周辺である。



もちろん、売る側も買う側も、舟に乗って取り引きする。




中洲の周囲に、品物を山盛りに積んだ売り手の舟がぐるりと並び、その周りを買い手の舟が行き来するのだ。



さらにその周りに、中洲周辺の場所を取り損なった売り手たちが舟を漕ぎながら近づいてきて、物色中の買い手たちに声を掛けるので、朝市の間の混乱はなかなかのものだ。





トーキ爺は巧みに櫂を動かしながら、舟を漕いで進む。




周囲には、同じように朝市を目指すらしい舟が、沈んでしまいそうなほど大量の荷を乗せてひしめき合っている。



しかし、どの漕ぎ手も器用に自分の舟を小刻みに動かしているので、不思議とぶつかり合うことがない。




「うひょー、すげぇなぁ」



チキュが感嘆の声を上げる。



「こーんなに舟だらけなのに、なんで全然ぶつからないんだ?

河の民ってすごすぎる!!」



トーキ爺は満更でもなさそうににやにや笑いながら漕いでいるが、答える気はなさそうなので、ウチューが代わりに言う。



「河の民は、生まれた時からずっとアイラルで水上生活をしてるんだ。

だから、彼らにとって舟を漕ぐっていうのは、俺たちが歩いたり走ったりするのと一緒なんだよ」



「ふぅーん、そうかぁ。

ずぅっと、河の上で過ごしてるんだもんなぁ」




チキュは再び周りを見渡し、感慨深げに河の民たちを眺めた。