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「……はぁっ!?
なっ、なんでだよ!」
チキュが大きな目をさらに大きく見開いて、大声を上げる。
「そんな事いきなり言われたって、はいそーですかってなると思うか!?」
チキュがこのように大騒ぎするのには、理由がある。
チキュとセカイが遊びから家に戻ると、ウチューが突然、今晩この町を出ると言い出したのだ。
その唐突な宣言を受けて、チキュは天地がひっくり返りそうなほど驚いた。
革製の大きな鞄に次々と手近な物を詰めていくウチューの隣で、チキュは勿論、非難囂々だ。
分かってはいたけど、とウチューは面倒そうな顔をしている。
しかし、荷造りをする手は止めない。
「おいっ、ウチュー!!
なに無視してんだよっ!!
感じ悪いぞっ!!!」
チキュが両手を振り回しながらぎゃあきゃあ騒いでいるが、その後ろにぼうっと立っていたセカイが口を挟んだ。
「………チキュ。
いきなりなのは、いつもの事じゃない。
今更そんなに騒いだって、仕方ないよ」
チキュは最大級の不機嫌顔を作って、セカイを睨みつける。
「………だってさぁ。
昨日カエナが店に来てくれてさ、親父さんがまた飲みに来るって言ってくれたんだよ。
そしたら上手い酒用意しとくって、約束までしたんだぞ?
おばさんだって、今度はパイを焼いてくれるって……」
だんだんと涙声のようになってくる。
セカイは黙って聞いていた。
「……それなのにさぁ。
約束も果たさないうちに引っ越すなんてさぁ。
親父さんにもおばさんにも申し訳ないよ………」



