「すみません、ボーっとしちゃって」
謝るあたしに差し出されたのは、裕貴先輩の大きな手のひら。
「……あの、」
「栗沢、迷子になりそうだから」
苦笑する裕貴先輩は、「ん」と、さらに手のひらを突き出してくる。
……これって、まさか。
勘違いだったらどうしよう、と思いつつも、流れに任せて自分の手を裕貴先輩の前に出してみる。
たぶん、緊張しているのはあたしだけ。
裕貴先輩にとって、こういうことは何でもないんだろう。
きっと、女友達とか……元カノの“平川さん”とも、普通にしていたんだろう。
裕貴先輩は何のためらいもなく、差し出したあたしの手を握り締めて歩き出した。


