「い、いえっ、食べてないです」
「俺も」
にこりと笑う裕貴先輩の視線は、あたしにだけ向けられている。
今日のこの夜が、ずっとずっと繰り返し続いていけばいいのに――……
「……あっ」
やばいやばい。
夢心地になっていたら、気づけばあたし、裕貴先輩に置いて行かれてるし!
こんな人ごみのなかで離れてしまったら最後。
裕貴先輩を見つけ出すことなんて無理だ。
「せ……っ、先輩! 裕貴先輩っ」
人波をかき分けて大きな声で呼ぶと、裕貴先輩は立ち止まって振り返った。
あたしははぐれないように必死になって裕貴先輩のもとに駆け寄っていく。


