「虎太郎……?」
「……姉ちゃん、これも入れよう?」
虎太郎が差し出したのは2冊のエンディングノート。
「母さんのお願いをちゃんと聞かないと」
“私の物は1つ残らず処分するように”
“あなたたちそのものが、私の形見”
「……連絡してほしい人のリストは書き写したから大丈夫」
ほんとうに、最後の最後まで虎太郎はしっかりしている。
「うん。これは、ママに持って行ってもらおう」
あたしと虎太郎はエンディングノートを1冊ずつ持って、棺の中にそっと納めた。
「――お願いします」
葬儀場のスタッフに一礼すると、彼らもまた一礼した後に、ゆっくりと、まるで別れを惜しむかのように棺に蓋をした。


