「ママ。あたし、ちゃんとママの最期の声を聞くからね?」
目頭が熱くなって涙が込み上げてきそうになったけれど、今はおいおい泣いている場合じゃない、と、大きく深呼吸をして落ち着かせる。
「千春、虎太郎。どこに行くんだ? 母さんの友達とかに連絡……」
「ごめん、父さん。ちょっと大急ぎでやることがあるから!」
「おいっ、おまえたちっ」
あたしたちは無理やり病室のドアを閉めて、病院を後にした。
「……ねぇ、虎太郎。鍵が見つかったのはいいけど、どこの鍵なのか分かってるの?」
「なぁ、姉ちゃん」
「うん?」
それまで走っていた虎太郎が、徐々にスピードを落として歩き始める。
「もしも母さんが、“俺だけの母さん”だったら、きっとこの鍵だけを隠していたと思うんだ」
「……どういうこと?」


