「あんた1人で行って来て。あたし、家で待っているから」
「……姉ちゃん。何言ってんだよ。これが母さんの最期の声なんだよ?」
……最期の声?
「母さんがどうやって息を引き取ったか教えてやろうか?」
「………っ!」
あたしはまだ、何も聞いていなかった。
ママが息を引き取る、その瞬間のことを。
あたしが病室に着いたとき、ママはもう、あの世に旅立った後だったから。
「今日の午前中までは、普段と変わりなかったって。夕方になって突然意識がなくなって。先生が言うには、大きくなったガンが血管を突き破って出血を起こしたらしい」
「……………」
「そのまま死んでいったんだよ。俺や父さん、そして姉ちゃんの顔を見ることも、会話をすることもできないまま! どんだけ母さんが悔しかったか分かるか!?」
「…………っ」
ママは、最期にあたしたち家族に何か言い残したいことがあったかもしれない。
長い時間一緒にいたあたしたちの顔を見ることもできないまま、遠い世界に行ってしまったママ……。
あたしが、ママの立場だったら。
虎太郎が言うように、すごく悔しい。


