【405号室 栗沢 蛍子様】
ママの病室は4階の角にある個室だった。
末期のガン患者だから個室なのか、と、嫌な考えが頭をよぎる。
「あらま、娘に息子よ。いらっしゃいませ」
ドアを開けてあたしたちが顔を見せると、ママはいつものようにふざけた態度で出迎える。
一瞬、あたしも虎太郎も息を呑んだ。
ほんの数週間前とは違って、黄疸の症状が強くなっていた。
話す口調も少しスピードが落ちている。
「あらま母上。グータラ生活はいかがですかな?」
“余命3週間”
ママに残された時間を思い出して涙が溢れそうになったけれど、グッと堪える。
「グータラ生活ってねぇ、あんた。母上は末期の肝臓ガンですぞ?」
冗談まじりでさらりと言い放ったママ。
あたしも虎太郎も、深刻な空気を少しでも出したらいけないと、声を出して笑ってみせた。


