「な? 千春」
“千春”
確かにそう言った。
これまでママの前で“千春さん”と言うのは聞いていたけれど、あたしに対してはいつまでも“栗沢”のままだった。
初めて名前で呼んでくれて、あたしの目からは涙がはらはらと零れ落ちる。
「おい、なんで泣くんだよ。そんなに梨緒のこと、」
「ううん、大丈夫。あたし、裕貴先輩の彼女として自信持ちます!」
力強く宣言すると、ほんのちょっと苦笑した裕貴先輩が自分の手であたしの頬を包み込む。
まさか……まさか……
ゆっくりと近づいてくる裕貴先輩の顔。
あたしはギュッと目を閉じて、“そのとき”を待つ。
だけど――……


