裕貴先輩は大きく肩で息をする。
続きを話そうとしているみたいだけれど、何かを考えているような顔つきでずっと遠くを見ているだけで、なかなか口を開こうとしない。
「…………」
「…………」
どれだけの沈黙が続いたのか分からない。
長く感じたけれど、でも実際は意外と短かったかもしれない。
ようやく、裕貴先輩が口を開いた。
「梨緒のこと忘れられなかったはずなのに、ヨリを戻したら後悔する、とさえも思った。その意味が今日、やっと分かった」
「…………?」
「おまえのことを何とも思っていなかったら、今ごろ俺は家でメシを食ってるんだろうな」
ふ、と笑いながら、裕貴先輩はあたしを見据える。
あたしは相当なバカなのだろう。
裕貴先輩の言った意味をよく理解できない。
ただ、少しだけ分かったのは、裕貴先輩が今抱いている感情は悪いものではないということくらいだ。


