気まずそうにママがこちらをちらりと見る。
あたしは首を大きく横に振って、“会わない、絶対に会わないから!”と無言のメッセージを送る。
「千春は……えぇと……」
おいこら。
なんでこういうときに限って、気の利いたことが言えないんですか、母上。
「そこにいるんだけど……鼻血出しちゃって、出るに出れないっていうか何ていうか……」
はっ、鼻血――!?
バカじゃないのバカじゃないの。
鼻血じゃなくて、風呂入ってるとか、買い物に行ってるとか、いろいろあるでしょ!
「栗沢!」
階段の前に身を潜めているあたしに向かって、裕貴先輩が呼びかける。
返事をしたいけれど、できない。
あたしの今の顔、泣きはらしたせいでグチャグチャになっているから。
「俺の話、ちゃんと最後まで聞け!」
「…………っ」
最後まで……って。
平川さんとのことをそれ以上聞きたくなかったから、あたし、無理やり話を終わらせたのに。


