運転手と柏木が迎えにきて、王宮へと到着したが柏木は必要最小限の説明をしてずっと黙っていた。


そのせいか車から降りて王子の待つ応接室へ向かう途中、段差もない絨毯にヒールをひっかけて倒れそうになる。


「きゃっ」


「おっと・・・。大丈夫でしたか?」


「すみません。私、雰囲気にのまれちゃって・・・ガチガチですよね。」


「緊張するなというのは無理でしょうけれど、私に接してくれたようにでかまわないのですよ。

お妃教育は私たち教育係の任務ですし、初日はありのままのお妃候補の皆様のお姿を王子と私たちで確認するだけのことです。

ミチル様風に言えば、これから食べようとする牛はどういった料理の仕方でいこうかな?って見るだけですから。」


「わ、私はおいしそうに見えますか?」


「プッ・・・その発言はここでいったん終了しておいてください。
大声で笑ってしまうと、私がクビになってしまいます。」


「す、すみません。前の話題そのまま返してしまうのは私の悪いクセなのですね。」


「そうですね。私は最初から比べるとかなりおいしさを追求したなと思いますけど。」


「そうですか。ありがとうございます、柏木さん・・・。
今夜はありのままを十分発揮してまいります!」


「その意気です。」


柏木はドアを開け、入口前で待機し、ミチルはひとりそのまま前へと進んだ。

ドレスのスカート部分を両手で開いてポーズして挨拶の言葉を述べる。


「初めてお目にかかります。ミチル・ヒダカと申します。」


「顔をあげてください。遠いところよくおいでくださいました。
私がイディアム・ロア・ナブミリアス。
この国の長兄の王子です。

半年という長い間、貴重なあなたの時間を拘束してしまいますがよろしくお願いいたしますね。」


「え、そんなもったいないお言葉・・・。恐縮でございます。」

(顔の怖い王子って・・・確かに顔立ちは冷たい感じはするけど、しゃべるとぜんぜん感じが違うなぁ。

すごく丁寧で、私の方が偉そうに聞こえちゃうかもしれない雰囲気だわ。)


「どうぞ、お楽にしてください。
キョウがどういう説明をしたかは存じませんが、教育係を始めとする上級使用人はこれからあなたにきびしいことをたくさん言うと思います。

でもね、僕は将来お妃候補の皆さんのうちのどなたかの夫となるわけですから、言葉や礼儀や技術以外の・・・お嬢様方個人の資質の部分をフォローできればと思っています。

そうでなければ・・・きっと子どもは望めない気がするのです。
知らない国、覚えること、人々とのふれあい。
いいことばかりとは限らない。どっちかっていうと嫌なことや苦しいことが多く待ち受けています。

けれど、いずれこの国の王になる私が必ず妃の前で手を広げますから。
お困りなことがあったら正直に言ってください。

悩みがあるならお聞きします。心配事、いろんな苦情やメッセージ、文章の方がよかったら、その返事も書きましょう。
安心して僕に頼ってください。」


「あの・・・キョウって?」


「あ、すみません。柏木響のこと。彼は僕の大学の先輩であり、公務その他会社経営やチャリティなどの事業なんかの僕の仕事すべてにおいて、僕の片腕なんです。

時には怒られるし、厳しい先輩さ。
おかげでこの年まで独身で・・・ってちょっとしゃべり方を軽くしていいかな?」


「かるく?」


「日本でいうところのため口?」


「あ、王子様のお好きになさってください。って・・・アレ?なんか敬語がうまく使えてない・・・。す、すみません。
私、きっと偉そうですよね。

えっと、王子様を何とお呼びすればいいのかも・・・。イディアム殿下様?
なんか変です。ああ~~どうしよう・・・。」


「あははは。君、いいねぇ。」


「えっ・・・わ、私やっぱり失礼なことをたくさんやっちゃってますか?
どうしよう・・・。すみません、あ・・・殺さないでください。
すぐに、出ていきますから!」


「ぶっ・・・くくく。あ~ははは。僕は人食い人種だね。
ぷぷぷ・・・あはははは。もっと楽にして。

ああ~~おかしかった。緊張するコはたくさんいるけど、驚かされたなぁ。」