ミチルは自分が見たこともない国へと強制連行されていこうとしているのに、なんてお気楽な話題をふってしまったのだろう・・・と後悔した。

隣では腹を抱えて笑っている、本当は超優秀なのだろうけれど、どうみてもバカ笑いしてる庶民以下状態の黒ずくめの男がいる。


「この現実にどうしてこんなリラックスした話をしてしまったのかしら。」


「ブッ・・・くくく。申し訳ございません。
でもよかった。私がお仕えするお妃候補があなたのような人でね。

美人で教養もあり、空気も凍るようなお姫様だったら、どうやってお怒りを鎮めればいいのだろうかと多少心配もしましたが・・・。」


「ちょっとぉ、いかにも庶民な私で悪かったわね!
どうせ、お金と景品目当てのゲス女よ。

なんとでも言ってくれていいわ。
貧乏になっちゃったんだからしょうがないでしょ。
こっちは風俗に売り飛ばされるよりはマシな覚悟くらいはしてるわ。」



「最初からそんな弱気では困りますね。
私の主になられたからには誰よりも胸を張って前を走っていただかないと私も困るんですよ。

出所がどこだとか、庶民だとか金持ちだとか親親戚がどうだとかそんなのぜんぜん興味はありません。

今回の目標はお妃候補をお妃にしてさしあげるのが私の役目です。
お金と景品はたかが副賞にすぎません。
お妃になってしまえば、国家予算を自由に手にすることができますよ。」



「国家予算なんて困るわよ。
だって・・・私はテラスティンの人たちをだますようなことはできないもの。

もしも何かの間違いでよ?私がお妃になってしまったのなら・・・。」


「なってしまったならいかがしますか?」


「国民の皆さんに土下座しなきゃ。
そしていったん逃亡したことにして・・・。

いちばん立場の弱い人たちの集まる職場に就職することにするわ。」


「どうしてです?」


「困っていることが手に取るようにわかるでしょう。
そして王様に報告して、改善を申し出ます。

そんなこときいてもらえるかどうかはわからないけれど・・・。」


「では私が王様や王室の方々があなたの意見が絶対だと尊重するような人物にあなたを変身させてあげますよ。」



「柏木さんってすごい自信家なんですね。
いいわ、黒執事上等よ!
私をそういう人物に変えてみせなさい。」


「了解いたしました。」



(それからの特別機に搭乗するまでの間、私と黒いヤツの間にはずっと沈黙しかなかったけれど・・・日本人にしては長身で、王子といい勝負するほどの冷たい表情。
しかし、吹き出して笑うとちょっぴりかわいいかも?な柏木響が私の担当で少しホッとしているところがあるのも事実だ。


そう・・・翌日からどんな特訓を受けるのかも、このときは何も知らずにお気楽な私だった・・・。)