キョウが遅れて外へ出ると、ミチルが夜空を眺めていた。

久しぶりにミチルの隣に座ったキョウはすぐに声をかけずに空を眺めた。


「クインさんを見習ってもダメですよ。
柏木さんに、そういうの似合わないですから。」


「久しぶりの憎まれ口ありがとうございます。
黙って座って空を見るなんて、私には合いませんね。

では、私なりの鑑賞をお教えしましょう。」


「柏木さん流の鑑賞って・・・?」


「私の耳元で『キョウ』と囁いてみてくださいませんか?」


「へっ?囁くの?」


「はい。どちらの耳でもいいですから、囁いてみてください。」


「キョウ・・・。」


「はい。っ・・・。」


柏木はミチルのとがらせた唇を自分の唇で覆い、両手ををミチルの両手に絡ませた。


「うっ・・・ううっ・・・あっ・・だっ・・・」


腕に力を入れて足をばたつかせていたミチルだったが、先ほどのイディアム王子の言葉がチラっと蘇ってきて、動くのをやめた。


「すみません・・・。気づかせてしまいましたね。」


「キョウ、1つだけ教えて。

キョウに従っていれば、私は傷つかないかなぁ。」


「ぼろぼろに傷ついてしまうかもしれません。

でも、私はあなたから離れたくありません。
どんなに憎まれても、そばに居たい。」


「困ったわね。残りの期間、王子を思ってるフリをしながら柏木さんの思いを受け止めるなんて器用なこと、私には難しいわ。

それに、私はオジサン趣味じゃないのよ。あはっ
帰ろう。ここで続きはまずいでしょ。」


「続きをしてもいいのですか?
うれしくて手加減はできないと思いますが。」


「ダ~メ。キョウのこと、何にも知らないし執事に偉そうにされたくないもん。
執事は生かさず殺さずでしょ?」


「はあ・・・。手厳しいですね。
まぁそのくらいの方が、ここでは都合がいいですけど。

そのうち、あなたがフリーになったら本当の私を嫌でも知ることになるでしょうからお楽しみってことで・・・。」


「何なの、それ?
キョウはもう楽しんでるクセに!」


「ええ。これから毎日が楽しみですよ。
イディアム王子のところに通うこともありません。

あ、言っておきますが、あなたが落選したのではありませんよ。
王子はあなたに憧れているのは本当なのです。

でも、あまりに私のあなたへの愛が大きすぎることを知って・・・。

あれ?あれれ?信じていない顔ですね。」


「深い事情ができたんでしょう?わかるわよ。
でもいいわ、クインに挑んだときのキョウがカッコよかったから。

でも、もうあの顔はNGよ。

ちゃんと氷メガネとおっさんスタイルで歩くのよ。」


「はい。ミチル様が私を束縛してくれるなんてうれしいです。」


「フン!・・・どっさり褒美はもらってやるんだからぁ!」