しばらく柏木はミチルの表情を見ていたが、突然プッと吹き出して言った。


「庶民の娘なのはわかっていますけど・・・大した想像力というか・・・ふだん何をご覧になっているんですか?クッ・・・あははは。」



「す、すみません。だって・・・こんな車の中でここで2人だし・・・。
こんなの、緊張して何が何やら・・・。

私だって自分で何を言ってるのかわからないんです。
あ、面接にもうならないっておっしゃるなら、はっきり言ってください。

私は世の中をなめていないつもりですから・・・。」



ミチルが気まずそうにそう言うと、柏木はいきなりミチルの右手首を勢いよく引き寄せて抱きかかえるように座席に押し倒すとはげしい口づけをミチルの唇に仕掛けた。

そして、唇をずらそうとするミチルの動作も封じ、数回にわたって自分の唇を押し当ててくる。


「やっ・・・うう。・・・もう・・・やめ・・・」


「はい、合格です。これからテラスティン王国までこのまま私とご一緒していただき、イディアム王子と面会していただきます。」


「ええっ!な、面接って・・・今のが試験だっていうの?」


「はい。
いきなり手荒なことをしてしまいました。申し訳ございません。

しかし、あなたが清い女性だということが証明されましたので、胸を張って王子の前でご挨拶してください。」



「そ、そんなぁ・・・。
だって・・・だって私の・・・私のファースト・・・いえ、何でもありません。」

(ファーストキスがこんな形になっちゃうなんてショックだけど、合格ならばもう私・・・腹をくくるわ。

私の力でお父さんに新しい工場をプレゼントして、私のお店だって出してみせるんだから!)


「王子がたとえブサイク王子でも、私はすべてを勝ち取るわっ!」


「いい心がけですね。でもご安心ください。王子は私より男気あふれたいい男ですよ。」


「でも、資料には28才とありました。
それまでお付き合いしてる女性とか、お見合いとかまとまらなかったのはなぜなのかしら?」


「そうですねぇ・・・この写真をご覧ください。
この方がイディアム王子です。」



「ほぉ~~~~確かに男っぽい感じの美形な方ですね。でも・・・。」



「でも?どこか気に入りませんか?」



「なんか冷たそうで怖いです。
笑顔の写真ってないのですか?

いつもこんな表情だとみけんにしわが残ったままになってるとか、苦労がたまりすぎて老け込んでしまうとか・・・考えてしまいます。」


「なるほど。第一印象はやはりそうなりますか・・・。」


「やはりって・・・私以外の人も怖いって思っちゃう?
そう・・・。なんだか悲しい人なのね。

端整な顔立ちなのに、笑顔じゃないっていうところももったいないわ。
怖い感じな人が心から笑うと、たまんなくかわいいってところもあると思うんだけどなぁ。」


「フフッ、面白いことを言いますね。
王子だって人間ですから、笑うときには笑っておられますよ。」


「笑わないとは言ってないわ。
まだ数枚の写真でしか見たことはないけれど、きっと誠実な方だと私は思います。

少なくとも、柏木さんよりかはずっと考えておられることが理解しやすそうに思えます。」


「はぁ?フフ、さっきの面接のことを根に持ってるんですね。
では、いずれわかることになるでしょうから、言っておきましょう。

お妃候補は複数おられるのはご存じだと思いますが、それぞれの方々にひとりずつ執事がつくことになっております。

つまり、お妃候補ではあっても期間限定のお妃扱いです。

それであなたの担当は私、柏木が承りました。半年間よろしくお願いいたしますね。」


「えっ!う・・・そ。試験官がそのまま執事なんて・・・。
何かというと、そばにいるアレ?

人間じゃない黒が似合う、銀食器で戦ったりするアレ?」


「ミチル様はなかなかステキなアニメをご覧になったんですね・・・。」