「(……あ、そっか)」


だから私、ここにいるんだ。

曖昧になってしまった記憶を探すために、だから『ここ』に来てしまったのかもしれない。


そう思うと、なぜだが少しスッキリとした。


軽くなった気持ちのまま、玄関扉に近づきドアノブに手を伸ばす。

開いた途端、ふわりとコーヒーの匂いが鼻孔をくすぐった。


「(あれ…なんか…、懐かしい…?)」


おかしいな…。
だって私は、ここに来たのなんて一度しか…、しかも、その時にコーヒーの香りなんて……。


あの時私が嗅いだのは、ひどくツンとした匂いだ。

塩コショウとなにか…少し、違和感を感じたのを覚えている。

ああ、コーヒーの匂いを嗅いだだけでこんなに思い出せるなんて!


猫又くんに会えば、もっと何か思い出せるのかな。