「進路希望出したか?」

……チッ。

俺は心の中で舌打ちをした。

「家の酒屋を継ぐので進学はしません」

「そうか! じゃあ、受験勉強しなくていいんだから、いくらでも掃除して帰っていいぞ! ハッハッハッ……」

高らかに笑いながら去っていく担任に、一瞬でも期待した俺がバカだった。

30分ほどで掃除を済ませ、ひとりで下校する。

そんな俺の姿を見て、他のクラスの生徒が声を掛けてきた。

「え!? お前、今日ひとりなの? いつも6人ぐらいでいるのに珍しいじゃん!」

「ま、まぁな!」

急に自分がさびしい人間のように思えて、そそくさと学校をあとにした。

電車を待つ駅のホームで、ふと思う。

……せめて、沙奈からは『誕生日おめでとう』って言われたかったな……。

と。

失意の中、電車に乗り3駅、徒歩11分。

自営業の酒屋のとなりに俺の家がある。

「ただいまー」

「ついでに、おかえりー!」

「なんのついでだよ!」

少し変わった母の出迎え。

「腹へったぁ~。どんなご馳走を用意してんの?」

「え? 夜ご飯、アンタの分はないよ」

「は? ……ご、ごめん、よく聞こえなかった」

「だ・か・ら、ないって!」

「はあぁ!?」

それが当たり前みたいな顔で言う母が余計に腹立たしい。

俺は初めての反抗期を迎えた。

「朝、誕生日おめでとうって言ったよね?」

「うん、言った」

「なのにどうして、なにも……?」

「う~ん……、母さんボケたのかしら?」

「本当にボケた人はそんなこと聞かねぇよ! もういい!」

俺はドタドタと階段をあがって、自分の部屋のドアを開ける。

――ガチャ。