「いや…別に…俺は…」

声をかけられた斐川は
上司から、目線を一瞬そらし

「俺は、特に何も…」

そういって、再び
彼女の目を見る。

照れ隠しと思ったのか、
クスッと笑い、俺達に手を振って
コート外の集団の方へ戻る彼女を
見送る。

斐川の指が

彼自身の唇に触れる。

初めてみる仕草ーーーー

ボールがゆっくり掌から落ちて
地面に当たり、乾いた音を立てた。

ハッとした表情のヤツを
視界にとらえて
思わず、ニヤリと笑みを
浮かべてしまう。

色んな意味で、コイツ

「油断したな。」

いただきます。

ヤツのガードをかわし
シュートを打つ。

ボールがリングに吸い込まれ

斐川が、ため息を
こぼした。