今ではもう昔のことだが、日本国東京都江戸川区に耳取りのみみんぱという男がすんでいた。

みみんぱは耳垢取りをしながら生計を立てていた。しかし生活は芳しくなかった。耳垢取りだけで得る収入はたかがしれていた。

平均年収50万円。区内のボロアパートに住んでいた。しかも大家に無理を言って家賃を一万円にしてもらった。電気やガス、水道は止められ、みみんぱは節約だらけの生活を送っていた。
だいたい、耳垢取りだけで生計を立てようとしていること自体、世間や社会をナメている。

実はみみんぱはガニメデという、太陽から5番目の惑星の衛星からやってきた異星人だった。容姿は人間にそっくりだが、耳が大きい。例えるなら福耳だが、それよりも大きい。普通の9倍くらいはある。
年齢は18歳だが、身長155センチで頭に毛はない。

みみんぱの故郷であるガニメデでは耳垢取りが盛んで耳取り長者がいるほどだ。耳取り長者は会員客を多数抱えている。耳取り料金は高いがそれだけの実力がある。施術してもらった客はそのテクニックに癒される。
しかし耳取りが多い為、長者になれない多くの者たちは貧しい生活を送ることになる。みみんぱはその一人だった。

みみんぱは出稼ぎに出ることを決意する。行き先は地球。地球は宇宙では指折りの先進経済及び高度文明の星だからだ。みみんぱはなけなしの金を使い、星間移民艇に乗り込んだ。

多くの地球人は異星人が地球にやってきていることなど知らない。いや、知らされないのだ。異星人の存在を知っているのはアメリカ合衆国政府、NASA、中華人民共和国政府と中国宇宙局だけ。彼らは強大な権限と圧力で異星人の存在を隠蔽していた。

みみんぱはアメリカ宇宙ターミナルに降り立った。そして出稼ぎをする国を精査した。

みみんぱの結論は日本。日本は先進7か国の一国で経済大国である。また治安が非常に良いというのが理由だった。





しかし現実は節約生活の毎日。みみんぱは社会の厳しさを叩きつけられた。
耳垢取りに関しては地球人よりは高いテクニックがあり、そこそこ客は来ていた。だが、耳垢取りなど一人で誰でもできるのだ。みみんぱはそれを知らない。
ガニメデ星人は耳が大きく複雑なため、一人では掃除ができないのだ。












そんな夏のある日、みみんぱは体と服を洗うため外に出た。洗うと言っても銭湯やコインランドリーで洗うわけではない。そんな金はなかった。ガスと水道が止められたみみんぱはお風呂に入れない。みみんぱは雨で体を洗うのだ。

しかし一向に雨雲からは雨が降らない。夏の蒸し暑さだけが続いている。みみんぱの服は汗でびっしょり濡れてしまった。それでもみみんぱはひたすら雨を待った。

みみんぱは一人空を見上げた。





故郷に残してきた家族。元気なのだろうか。ふと気になってしまった。
出稼ぎに来て、全然稼げていない。いったい自分は何をしているのだ。みみんぱは自分を情けなく思った。
だが落ち込んではいられない。家族の為、そして自分の為にも前を向いて頑張らなくては。










「アンタねぇ。くせーよ!!!!!!」

誰だ。誰かがみみんぱに言い放った。
みみんぱは声のしたほうに目をやった。マンホールの上に誰か立っている。よく見ると見たことのある者だ。それはナニラという者だった。
ナニラはみみんぱと同じくガニメデ出身の出稼ぎだ。みみんぱ同様耳が大きく、背丈もみみんぱと同じくらいだ。だが、髪の毛は生えており、地球での生活も成功していた。

ナニラとは昔からの付き合いだが、仲はあまり良くない。ナニラはしばしば他人を下に見ることがあった。自分が優位的な立場になれば尚更他人を見下した。みみんぱもかなり見下されたが、みみんぱはナニラに馬鹿にされないように常に頑張っていた。

だが、地球に来てからは頑張っても頑張っても