「でさ、その白いワンピースと白い帽子姿の異常に背が高い女がさ、ぼくのほうを振り返ってきたんだ!!」

昼休み、奏多は昨日のあの巨女の話を友人達にした。

「その女、忽然と姿を消したんだ…。」
と奏多が言うと、友人達は
「お前、寝ぼけてたんだよ(笑)。何か白いのが女に見えただけだって!」
と言う。


やはり、あれは幻だったのか?それとも何かと勘違いしたのだろうか?
あの巨女を昨日以来見ていない。恐怖感は薄れ、不思議さが奏多のなかでは高まっていた。

「オレもホラー系好きだからさ。奏多、これからも怪談頼むぜ!!」
友人が言う。

「いや、これ最初で最後の体験だと思う。だから怪談はできねーよ!!残念だな(笑)」
奏多が友人に言った。
例え、妖怪や幽霊だったとしても一度限りの体験にすぎない。言うなれば貴重な体験をしたということだ。霊感のない奏多はそう思った。







「君!」

教室にいる生徒全員が注目した。
そこには眼鏡をかけた背が高い男子生徒が立っている。見たところ2年か3年生らしい。

「君!ちょっといいか。」

どうやら奏多に用があるようで、男子生徒は奏多に合図した。
奏多は彼と面識はない。

"いったい何の用だ?"
そう思いながら、奏多は彼について行った。



廊下のつき当たりまで行くと彼が話し出した。

「突然すまんな。オレの名前は小石川憲治。話は巨女に関することだ。」

どうやら奏多の話が聞こえたらしい。怪談に興味があるのだろうか?



「君、その巨女いつ見た?」
憲治が奏多に尋ねた。

「昨日ですけど…何か?あっ、怪談はあまり得意ではないですよ(笑焦)」
奏多がそう言うと

「昨日か…。あの話が本当なら…」
憲治は考え込んだ感じの仕草をして、小さくつぶやいた。

「な、なんなのでしょう?(笑汗)」
奏多には何がなんだかわからない。

「オレは怪奇研究部部長を務めている。君の話を詳しく聞きたい。今日の放課後必ず部室に来てほしい。」
憲治が言った。

奏多は了承し、部室を訪れることを告げた。やはり、怪談目当てだったらしい。怪奇研究に役立つだろう。
だが憲治が去り際に言った言葉が奏多は気になった。

奏多の肩をポンとたたき

「あの話だとしたら、早いほうがいい。」
と言ったのだ。



"あの話って?"
気になる言い方をするものだ。一貫して冷静な語り口調で話をされた後に、あの言い方というのは不安を持たせられる。
とにかく、放課後に部室を訪ねないとわからない。

奏多はそれから長い授業を受けた。








そして放課後。

奏多はHRが終わるとすぐに教室を出た。
怪奇研究部は人気のない最奥の教室にある。奏多は一人、廊下を怪奇研究部へと向かっていった。


部室が近づくにつれ、薄暗くなっていく。怪奇研究部は常に日差しが入らない場所にある。いかにも不気味だ。


「失礼しまぁす…」
奏多は恐る恐るドアを開けた。

部室は廊下と同じく薄暗く、ほのかに夕焼け色がかっている。


「ようこそ〜!怪奇研究部へ!」
元気過ぎる女子生徒の声がしたかと思うと、いきなり奏多の目の前に現れた。

「っダーーーーーー(焦)!!!!!」
奏多は思わず叫んでしまった。

「驚いた?私は高槻奈緒!!2年ね。よろしくぅ」
部室の暗さに似合わずテンションが高い奈緒は奏多と握手した。そして握手した手を大きく上下に振る。満面の笑顔だ。

奏多は奈緒に圧倒されている。

「高槻、……やめよう」
部屋奥に座っていた憲治が奈緒を静かに制止した。
そして奏多に例の話をしてくれるように頼んだ。

奈緒のおかげで不安は一気に吹き飛び、奏多は落ち着いて昨日の巨女の話を二人にした。奏多は滅多にない経験をしたということを、少し自慢に話した。



話が進むにつれ、憲治の顔が険しくなった。その表情の中には驚きも入っている。
憲治の冷静な表情だけしか見たことがない奏多は、憲治の表情が曇ったことに再び不安を覚えた。

「話は以上です。どうでした?部活動に役立ちます?」
奏多は不安な気持ちを隠しながら憲治に尋ねた。



「やはり、あの話か…。ネットだけの話だと思っていたのだが…」
憲治は冷静ながらも驚いた感じに言葉を返した。
奏多は、憲治が言う"あの話"と言うものを聞いてみることにした。それしか知る術がない。

憲治は奏多に説明を始めた。
「最近ネットで広まったある都市伝説がある。その都市伝説の話が君、山埼奏多が話していた話と同じなんだ」
ネットの話と奏多が体験した話が同じなのだと言う。同じ体験をした者が奏多のようにいるのか、単なる偶然にすぎないのか。だが、ネットというのは事実だけが書かれているわけではない。中には事実無根の嘘や噂、作り話が存在する。その都市伝説自体、誰かの創作にすぎないのかもしれない。
真偽がわからない怪談を白黒つける為、自分が呼ばれたのか?奏多はそう思った。

「その都市伝説には、八尺様と呼ばれる女が現れるんだ。」
と憲治は説明を続ける。
八尺様とは、2011年頃からネットで話題となった都市伝説の話である。八尺様は女の怪人であり、名前の通り身長が八尺ある。一尺約30センチであるから、八尺ともなれば約2メートル40センチということになる。異常な背の高さであり、奏多が見た巨女に酷似する。

"へぇ、八尺様って言うのか"
奏多はあの巨女に名前があることに思わず感心した。
「これは都市伝説だ。この話の通りになるとは限らないが…」
憲治は奏多に一旦断ってから説明を続けた。

「八尺様を見るということは、八尺様に魅入られたということになるらしい。そして八尺様を見た者は数日のうちに取り殺される、とこの話には書かれている。」
憲治が言った。
奏多は冷や汗をかいた。自分は数日のうちに殺されるのか…
だが、ネットの話でもある。憲治の言う通り、その話の通りになるとは限らない。

現に、あれから今に至るまで八尺様に遭遇していない。


しかし、その話の数日も経っていない。もしかすると今からでも八尺様が現れるかもしれない。