奏多は茜色に染まる街を自宅へと歩いていく。




ふと前方にある歩道橋に目をやった。何気なく見ただけだったが、奏多は違和感を感じた。


携帯片手に歩道橋の階段を上るサラリーマン、ゆっくり階段を下りるおばあちゃん、橋上で世間話をしている主婦たち、そして歩道橋横をゆっくり向こう側に歩いていく白いワンピースに白い帽子を被った巨女。

奏多は目を疑った。その白いワンピースの巨女は、他の人と身長を比較すると2倍はある。

"あんな高い人いるのか!!?"
奏多は凄く驚いた。驚くのも無理はない、歩道橋の橋桁に頭がつきそうなくらいだからだ。


コツ…コツ…とゆっくり向こう側へ歩いていく白いワンピースの女。スラリとした体型、異常に背が高いその女。しかし周囲の人はまるで気づいていないようで、驚愕している様子はない。


奏多は凛が見た変人のことを思い出した。

"確か、異常に背が高かったって言ってたな…あいつか?"
そして奏多は感じた。




"誰にも視認されていないであろうアイツ、……まさか妖怪!?!"



と思った瞬間、その白い巨女は足を止めゆっくりと振り返ってきた。
奏多は体が固まり、それを凝視するしかできない。



グーッと顔を振り向けてくる巨女。もう少しでその女の顔が見える。何か空気が違う。先程までの賑やかな街の音が聞こえない。ゾクゾクと寒気さえする。

奏多は咄嗟に目を閉じた。
ほんの少ししてゆっくりと目を開けると、もうそこにはあの巨女はいなかった。

"ぼくが今見たのって…"
果たして今自分が見ていたのは実在したのだろうか、はたまた幻なのだろうか。
奏多は何とも言えない気味悪さを感じた。



空は薄暗くなり、街は夜の準備を始めた。

奏多は夜に移り行く街のなか、自宅へと急いだ。