夕暮れの教室。


授業が終わり、放課後となった教室にはうたた寝をしている奏多以外にいない。

宮内の件があったが、あれから特に何かあったわけではない。
強いて言うなら、すれ違いざまにガン見されるくらいか。




「まだ寝てんの?」

奏多が目を覚ますと親友の俊哉が立っていた。

「ん?俊哉か…・・・気を緩めたら眠たくなって、ついね。」
奏多が言った。

「そうか。マイペースだよな、奏多は。」
俊哉が言う。
奏多は平凡が好きだ。だから何かに巻き込まれるのはあまり好きではない。部活にも所属していない。つまり面倒くさがりなのだ。

「奏多は部活入らないの?」
俊哉が奏多に聴いた。

「うんっ!!入らないよ!ぼくはどこにも属さない。一匹狼だよね!!栄光ある孤立、永世中立さ。」
奏多が溌剌と発言した。

「はぁ、そういうの一匹狼って言うか?言わないと思うけど。」


俊哉は呆れ気味に言うと、忘れ物を取り部活へと戻って行った。






「うむ。さて、帰るかな」
奏多は教室を跡にした。




昇降口を出た。
授業が終わって結構時間が経過しているからだろうか。見渡す限り昇降口から校門までの道程に人影はない。
「さすがに帰宅部はもう帰ったか…(笑)」
昇降口から離れたグラウンドから野球部の練習の音が聞こえるなか、奏多は家路につくことにした。


歩きだしてすぐ、一人の女の子が校門側から走ってきた。制服からして同じ高校の生徒だ。
すごく焦っているようにみえる。また、しきりに後ろを気にしている。


女の子は奏多を見つけると一目散に奏多の元に来て、校門側を指差して
「た、助けてっ!!!変なのがいたの(焦)」

女の子は息を切らしながらそう言ってきた。面倒くさがりの奏多だが、頼みを断ることはできない性格だ。女の子が奏多を見ると一瞬女の子の表情が固まったが、女の子は今までの経緯を説明しだした。
「あっ、あのね、校門を出たすぐの四つ角に変な人がいたのっ(汗)」
聴くと、その変人は背が異常に高いのだという。そして鎌を持って威嚇してきたという。
「背が高くて、鎌持ってたの!?」
奏多が聴き返した。
「2メートルある塀越しにそいつが見えたのっ!!それで左の路地から蟹歩きで私が歩いている道に出て来たんだよっっ。手に二本、鎌みたいなの持って蟹歩きを左右に繰り返していたの。」
女の子が必死に答える。

「どんな人だった?何歳くらいとか、男か女かとか。」
奏多は詳しく尋ねた。

すると、女の子はあっ!という顔をしたかと思うと下を向いて
「ごめん、すぐ逃げたからわからない…」
と言った。

「気にすることないよ。怖かったんだから。大丈夫、大丈夫。僕が家まで送るよ!鎌を持った変質者がまだいるかもしれないからね。」
奏多は女の子を宥めると、女の子を家まで送る為一緒に校門を出て行った。奏多は変質者から女の子を守らなければと強く思った。


「いやぁ、今日なんか暑いよね?ん、気のせいかな?」      奏多が今だ怖がっている女の子を気遣かって声をかけた。
だが、まだ余裕はないみたいだ。



二人の間にしばらく沈黙が続いた。




大通りに出ると女の子が
「ありがとう、ここで大丈夫。」
と言った。女の子の表情はだいぶ落ち着いていて奏多はホッとした。

「え、家の近くまででも送るよ。僕なら大丈夫!」
奏多が言った。

「ありがとう。でもお母さんが来るから大丈夫だよ。ありがと、えっと………私は姉ヶ原凛って言います。高1です。」

今まで変質者のことですっかり自己紹介を忘れていた。
「僕は山埼奏多。僕も高1。すっかり忘れてたね(笑汗)」
と奏多が言った。凛はまた奏多の顔を見た。何かに気づいたかのような表情をして。

「あ、ごめん。」
凛が咄嗟に答えた。

「あっはは、何か付いてる?う〜ん、高1に見えないとかかな?」
奏多が陽気に答えた。
瞬間、凛がどこか淋しげな表情をしたようにみえたが      「うん!顔に黒い汚れが!」
と明るく答えた。
「マ、マジか!!」
「嘘だよ、嘘!何も付いてないよ」
奏多はかなり凛が元気になった為安心した。

「姉ヶ原が元気になって良かったよ!お母さん来るまで一緒に待つよ。」
奏多はそう言って凛と一緒に迎えを待つことにした。






「さっきの変な人…」


他愛ない会話の後、凛がぽつりと言った。真剣な顔をしている。
「どうした?」
奏多が尋ねた。

「やっぱり大丈夫、変な話になるし。。」
凛が言った。

「気にしないで良いよ!何かあるんだよね。最後まで聴くからさ。」
奏多が言うと、凛が頷き一言言った。









「さっきの変な人、妖怪かな?」








凛はそう言うと、
「変な話でしょ?私、霊感があるみたいなんだ…。昔から…」
と続けた。

奏多はふと思い出した。
幼い頃出会った女の子のことを。その女の子も霊感があり、そのことを悩んでいた。

「ぼくは妖怪は見えない。でも、否定はしない。見える世界が世界の全てではないと思うんだ。」
奏多は言った。

「姉ヶ原、何かあったら相談してよ!ぼくはいつでも相談に乗るから。ぼくがいるから大丈夫!!!っなんてね。」
奏多が言った。凛は微笑んだ。
そして凛は言った。
「友達に山埼くん、相談できる人いっぱいいる。山埼くんのおかげっ!」
凛がニコッと笑顔で言った。今日奏多が見た凛の笑顔の中で最高の笑顔だ。
凛のお母さんの車が到着した。

奏多は凛を迎えの車に無事乗せることができた。
奏多は車を見送り、家路につくことにした。


「妖怪…」
帰り際、奏多はふと思った。
否定はしない、どちらかと言えば奏多はオカルト好きなほうだ。
だが妖怪や幽霊の類が見えないのは事実だ。そこにいるという実感が沸かない。
"確かに見える世界が世界の全てではないよな…"
奏多は先程凛に言った言葉を再び確かめた。
この世界には科学では説明のつきにくいものが少なからずある。それは奇跡だったり怪奇だったりする。
ただ経験する人が少ないため、少数意見となり多数意見に飲み込まれる。末路は消えるか細々と残るかだけである。