この男は唐突に何を言い出したのか。
 
意味が分からず、階段の途中で立ち止まる私に、健やかな笑みを見せる。


「さいわい、帰りの方向も一緒なことだしさ。たまに、こうやって一緒に帰ってみない?」


「……あたし、あんたのことフッたんだけど」
 

ファンの子たち曰く、人を傷つけるようなひどい言葉を使って。
 


告白場面を思い出したのか、森川はやや視線を逸らした。


「まあ確かに、『きもい』発言はショックだったけど、でもその通りだったなーと俺も反省してさ……」
 

照れたように頭を掻くしぐさは、初々しい少年のようだ。


「よく知りもしないのに、いきなり2人で映画はきついよな」

「……」
 

そういう意味でもなかったんだけど……。
 

ひどく前向きな彼にあっけにとられる。