「こんなとこに座り込んで……どうかした?」
優しい声音に振り向いた瞬間、知らない男が目に入る。
スーツ姿の、若いサラリーマン。
人の好さそうな顔が私を見下ろしている。
なんでもないです、と言おうとして、声がかすれた。
「あ、怪我してるじゃないか」
膝に血が滲んでることに気づくと、男の人は背後のマンションを一瞥する。
「うち、すぐそこなんだけど……」
一瞬だけ、目つきが変わったことを見逃さない。
「手当て、してく?」
小奇麗なマンションには、柔らかな灯りがともっていた。
いいや……。
サラリーマンを見上げて、小さく頷く。


