恐怖短編集

「痛くないの?」


母親は顔だけこちらへ向けてそう聞く。


「気づかなかった」


ボーッとしてたから、私はそんな意味をこめて言ったが、母親は「あの薬、本物だったのね」と何度も頷いた。


この時、違うよ、あんなの効かない。


と一言言えばよかった。


けれど私は嬉しそうな母親の顔を見ると、それさえも言えなくなってしまった。


それから、母親は職も何も決まっていない私を毎日占い師の元へ通わせた。


あの薬のせいで、本当にその人の事を信じきってしまったのだ。


とにかく、占い師のいう事ならすべて聞いた。


いい事も悪い事も、占いの通りに実現させた。