恐怖短編集

それでも、私はバレーがしたかったから文句は言わなかった。


母親が学校に来ないおかげで私の変な噂も消え、友達だって出来た。



高校卒業を間近にして、母親は私にこんな薬を飲ませるようになっていた。



「痛みを感じなくなる薬?」


いかにもうさんくさいその薬は、毎週通っている占い師から買ったものだと言う。


黄色い箱には≪傷みを快楽へ≫と書かれていて、中には真っ赤な楕円形の薬が40錠ほど入っていた。


「これを一日二回飲むのよ。あの占い師がね、ケガをするかもしれないっていうから。あなたも痛いのは嫌でしょ?」


そう言いながら、母親は微笑んだ。



笑ったその口からは黄ばんだ歯が覗いて、私は思わず顔を背けた。


もう、昔の母親の面影なんてどこにもない。


ボサボサの髪に何週間も着ている服。


化粧もとっくの前に剥げていて、唯一顔に残っているのは一部のファンデーションのみ。