恐怖短編集

一瞬身を硬くし、それから一度大きく口から息を吐き出して耳をすませる。


「どうしてなの?」


先ほどまでの小声ではなく、感情を堪えきれなくなって声をあげて泣き始める。


父親の声は聞こえてこない。


険悪した雰囲気なのは母親の声だけでも十分につたわってきた。


耳を床から離しても聞こえてくる母親の泣き声に、私は少し安心した。


確かにいるのだ、リビングに。


からからになった喉にツバを飲み込み、っきのは見間違いだったのだと、自分に言い聞かせる。


あれは、きっと夢だったんだ。


「バカみたい」


そう呟き、少し笑う。