魚達は、たくさん集まって、小さな子熊に群がります。そのお陰で、だんだんと小さな子熊の流される速度が弱まっていきました。

 それを見計らって、二匹の子熊が、小さな子熊を引き上げます。小さな子熊は、息も絶え絶えでしたが、助かったようです。


「やぁ、ご無事でなにより。よかったですなぁ」


 川から顔を出したのは、先頭を泳いでいた、お爺さん魚です。

 三匹の子熊達は、不思議そうな顔をしています。

 小さな子熊が尋ねました。


「なんでボクをたすけてくれたの?」

「はっはっはっ!助けてくれって言ったのは君じゃないか!何の不思議なことはない!」


 さも当然のように、お爺さん魚は、言います。小さな子熊は、ますますわからなくなりました。


「だって、ボクは、みんなをとって食べようとしてたんだよ?」


 小さな子熊がそう言うと、お爺さん魚は、笑顔のまま優しく言いました。


「確かに君達、熊は、ワシら魚を食べる。ワシのじいさんも母さんもとっくの前に君達の腹の中じゃ」


 三匹の子熊は、黙ったままです。お爺さん魚は、続けて言います。


「しかしな、ワシも小さな命を食べる。それはな仕方のないことなんだよ。ワシらは絶対に一人では生きてはいけん。だからな、せめておいしく食べて、楽しく生きる。それが、償いになると思っているんだよ」


 お爺さん魚は、そう言って優しく微笑みました。


「おいしく食べて……」

「たのしく生きる……」


 お爺さん魚の言葉を、大きな子熊と中くらいの子熊が反復しました。


「ほっほっほ、またな坊や達」


 そう言って、お爺さん魚は、また川の中に入って仲間達を引き連れて、どこかへと泳いでいきました。

 それを、三匹の子熊達は、じっと見つめていました。

 ただ、ずっと………見えなくなるまで。